1st Vnの出口です。今回は弦楽器を題材としてアンサンブルについて考えていきたいと思います。
1.他の楽器と合わせる前に(音色の話)
前々回のコラム(Vol.2「和音の話」)ではきれいなハーモニーを作るためには音程だけでなく音色も大事だと書かれていました。弦楽器の場合、弓のコントロールがそのまま音色に現れてきます。弓をうまくコントロールできていない場合、以下のような音になってしまうことがあります。
(A) 弓の圧力をかけすぎて音が潰れてしまう
(B) 弓の速度・圧力がコントロールができず音量(音の密度)が安定しない
(C) 音の立ち上がりが遅く、弓を返す瞬間に減衰する(さつまいものような形の音)
これらは主に右手のテクニックの問題なのですが、実はアンサンブルとも密接に関わっています。右手のテクニックは音の発音・密度・スピード感・音量などに影響します。他の楽器と合わせる際には、これらのニュアンスが揃わなければ良い響きが得られません。まずは各自がA~Cのような音を出していないか確認してみてください。特に無意識のうちにCのような音を出しているケースが多いのでご注意ください。
理想としては「初めから均一な音でスタートし弓先まで抜けないような音」、いわゆる「羊羹をスパッと切ったような音」が基本となります。この安定したボーイングを身につけた後で、その応用としてクレッシェンドやデクレッシェンドのような音量の変化を加えることが可能になるのではないでしょうか。
というのもクレッシェンドひとつ取ってみても「どのような度合いでクレッシェンドするのか」を考えた上で弓をコントロールしなければならないからです。弓をコントロールできず「出ちゃった音」では、一人一人の音色がバラバラになってしまい結果的にうまく混じり合った音にはなりません。音は「出るもの」ではなく「出すもの」ということをしっかりと認識し、自分の出している音色にこだわりを持ってみてはいかがでしょうか。
2.縦を揃える(リズムの話)
多くの楽器が様々なリズムを弾いている中、縦をきっちりと揃えるためには各パートが楽譜に書かれたリズムを正確に演奏する必要があります。
折角ですので12月に演奏予定の第九を例に見ていきましょう。
上に示すのは3楽章99小節目の1st Vnの譜面です。ここは拍子・テンポの変わり目であり、さらに2拍目からは16分音符の細かい動きが始まるためパート内でずれやすい箇所の一つになっています。では、どうすればバラバラにならずに弾くことができるでしょうか。
練習中に「細かくカウントするように」と注意された経験がある方は多いのではないでしょうか。これは正確なリズムを取る上で非常に重要なことです。例に挙げた小節の場合、指揮者は付点4分音符を1拍で振ることが多いと思いますが、演奏者はそれを3等分して8分音符単位でカウントすることが望まれます。8分音符を基準としてとらえると付点四分音符は8分音符3つ分に、16分音符2つは8分音符1つ分に相当します。1拍を6等分するのは難しくテンポが崩れがちになってしまいますが、細かくカウントした8分音符に2つずつ音を入れれば余裕を持って弾くことができ、その結果テンポも安定するようになります。
実はこの基準となる8分音符の動き、実際に2nd以下の弦楽器が担当しています。
スコアを見れば常にどこかのパートが8分音符単位で動いているのがわかりますね。1st Vnは2nd以下の弦楽器がこのような動きをしていることを認識し、これらのパートが刻む8分音符を基準にして音符を並べることで縦を揃えることができます。
このようにきっちりと縦を揃えるためには雰囲気でなんとなく弾くのではなく、細かい単位で音符を分割し楽譜に示されたリズムを正確に演奏することが必要になってきます。新しい曲に取り組み始める際には、まずは「細かいカウント」に対してどのような譜割りになっているか確認することをお勧めします。
3.曲の流れについて(メロディーの話)
前項では縦を揃えるためには細かいカウントをすることが重要だと述べました。一方で、音楽的に歌うためにはテンポを崩すこともあり、「機械的に一定のリズムでカウントしていては旋律と音楽的に合わないのでは?」と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここで一つ注意して頂きたいのは「細かくカウントする=一定の速さで刻む」ではないということです。先ほどの例に戻ってみますと、2nd以下の弦楽器の8分音符は常に一定の速さで刻んでいるわけではなく、1stの旋律に反応して微妙に揺れながら動くことになります。つまり細かいカウントを担当している2nd以下の弦楽器は、融通の利かないメトロノームのようなテンポの取り方ではなく、曲の流れを読み取って柔軟にテンポを伸縮させながら演奏する必要があります。
これは旋律を弾く立場からの意見ですが、伴奏のテンポが完全に固定されてしまうと歌おうと思っても自由に動けないと感じることがよくあります。逆に曲の流れに柔軟に対応できる伴奏であれば旋律としては自由に動くことができますし、さらに言えばその伴奏によって旋律の動きを上手く引き出してくれることさえあります。
そう考えると曲の流れというのは旋律だけが作るものではなく、むしろ伴奏が担当している細かいカウントの揺れ具合によって決まってくるのではないでしょうか。つまり旋律が伴奏を引っ張っていくのではなく、伴奏が旋律の歌いやすい基盤を作った上で旋律はその流れに乗って自然に歌う。そして旋律もただ流れに乗るだけではなく、時には伴奏を引っ張って動きを加える。このように旋律・伴奏を担当しているそれぞれのパートがお互いに刺激し合って一つの流れが作れたら素晴らしい音楽になると思いませんか?
4.まとめ(良いアンサンブルをするために)
これまでに音色・リズム・メロディーの順に説明してきました。私はアンサンブルをする時にはこの順番に作っていくべきだと思っています。特に音色・リズムに関しては個人練習の占める割合が多く、全体で合わせる前にある程度基礎を固めておく必要があります。
そして正確なリズムを取る上で私が重要視しているのが「細かいカウント」です。まずはこの「細かいカウント」に対してどのような譜割りになっているかを把握し、正確なリズムで演奏できるようにしましょう。合奏になると、この「細かいカウント」にも曲の流れによって多少の揺らぎが発生します。演奏者全員が曲全体の流れを共有して「細かいカウント」の揺らぎを同じように感じ、さらに各パートがその揺らいでいる「細かいカウント」に対して正確なリズムで演奏する。このような合わせ方をすることで、揺れたテンポの中でも縦がずれることなく合わせられるのではないでしょうか。
今回、私が実践しているアンサンブルのコツを紹介しました。コツというのは人それぞれ捉え方が異なるため、これが正解というものはありません。従って、今回の内容をそのまま受け入れるのではなく、自分なりのコツを掴むための参考にして頂ければと思っています。みなさんも機会があれば「普段自分が何を考えながら演奏しているのか?」について確認してみてはいかがでしょうか。