今回は、和音の話です。音楽の3要素を「メロディ」「リズム」「ハーモニー(和音)」とよく言いますが、元来チューバ吹きである私のDNAは「ハーモニー」「リズム」「メロディ」の順に敏感です。普段の練習でもその傾向があることは団員の皆さんも感づいておられるかもしれませんね。ハーモニーの土台を支えているのは自分だ!という揺るぎない自負がチューバ吹きにはあるようです。
さてこの「和音」は実に不思議な力を持っています。音が二つ(以上)集まる事によって「1+1=2」以上の広がりが出て、ピッタリハモッた時には琴線にビンビン触れるというか何とも言えない快感を伴うものです。その感覚をまだ経験したことのないあなたは音楽の楽しみ方を一つ知らずにいるということで、実に勿体無い話です。
ちょっと前置きが長くなりましたが、「ハモる」とはどういうことなのか、冷静に物理学的な意味合いから考えてみます。例えば、ある高さの音(下図の青色)に対して別の高さの音(ピンク)を重ねた時に、左のように周期が何回かに一回規則的に同じところで出会うのが「ハモッた」状態です。これに対して右図では微妙に周期がズレているため、同じところで出会えません。この状態では二つの音は「ハモる」ことができません。
これを換言すると、二つの音の振動数の比率が1:2とか4:5とか整数の場合には左のようにどこかで必ず出会うことになりますから「ハモる」関係にあると言えます。そして、二つの音の関係と「ハモる」ための振動数の比率は、オクターブなど代表的な関係においては下の表のようにごく単純な数値で表されることがわかっています。これを実現したのが「純正調」です。
音の関係 | 振動数の関係 |
オクターブ | 1:2 |
完全五度 | 2:3 |
完全四度 | 3:4 |
長三度 | 4:5 |
一方、よく知られているとおり音階にはもう一つ「平均率」というのが存在しますが、「平均率」の世界ではオクターブを除いて絶対にハモることはありません。なぜなら、振動数の関係が上の表のようにきれいな数値ではないためです(右側の図のような状態になる)。
一オクターブは12の半音に分割されますが、平均率により区切っていった場合の数値と純正調とを比較すると次の表のようになります。
平均率 | 音階 | 関係 | 純正調 |
2.0000 | Do | オクターブ | 2.000(=2/1) |
1.8877 | Si | / | / |
1.7817 | La | / | / |
1.6818 | / | / | / |
1.5874 | / | / | / |
1.4983 | So | 完全五度 | 1.500(=3/2) |
1.4142 | / | / | / |
1.3348 | Fa | 完全四度 | 1.333(=4/3) |
1.2599 | Mi | 長三度 | 1.250(=5/4) |
1.1892 | / | / | / |
1.2225 | Re | / | / |
1.0595 | / | / | / |
1.0000 | Do | 基音 | 1.000 |
この表からわかることは、例えば完全五度(ドとソの関係)の場合には平均率が1.4983なのに対して純正調は1.500です。つまり平均率による音程に対し両者の間隔を若干広く(ソを若干高めに)とらないと「ハモって」くれないわけです。同様に、長三度(ドとミ)の場合にはミを若干低めにとらないと「ハモり」ません。練習の時によく「第三音(ドミソのミのこと)は低めにとること」などと言っていることの背景にはこのような物理学的な意味があるわけです。この関係をよく理解してハーモニーを作るように心がけて欲しいと思います。もちろん、音程のとり方はケースによって変わることもありますが、大部分はこの「純正調」の考え方をベースにします。
和音に関して注意すべきポイントがあと二つあります。それは「音色」と「音量のバランス」です。どんなに正しい(純正調の)音程を実現しても、音色が楽器本来のものでないと「ハモる」のは非常に難しくなります。美しくないものどうしを混ぜてもそこから美しいものができるはずはありませんね。また、「ド>ソ>ミ」の音量バランスが崩れてしまうとこれまた良い響きがしません(例えばミの音が大きすぎると暑苦しく感じます)。
こういった点も踏まえ、今自分の出している音は全体のハーモニーの中でどんな位置付けなのか(何調の和音の第何音を担っているのか)を常に考えながら、それに相応しい音作りをすることが大切です。そして、そういった感覚を磨くのに効果的なのが「アンサンブル」です。弦楽四重奏、木管八重奏、金管五重奏、などなどアンサンブルの形態は数多く、素晴らしい曲が世の中には無数にあると言っても良いでしょう。日頃からアンサンブル活動をおこなっていれば、前述した音程のことも含め「周りと合わせる」という演奏者にとって最も基本的かつ重要な感覚を飛躍的に向上させることが出来ます。「オーケストラは小さなアンサンブルの集合体である」ということを実感・実践するためにもアンサンブルに取り組んでみては如何でしょうか。