Vol.5-1 「弦楽器で大音量を出すために」

1st Vnの出口です。

最近バイオリンの演奏について深く考える機会があり、折角なので久しぶりにコラムで紹介させてもらうことになりました。

今回は「ヴァイオリン(弦楽器)で音量を大きくするにはどうしたら良いか」をテーマに考えていきたいと思います。

音量を上げるための方法として一般的によく言われるのは以下の3点です。

(1) 圧力をかける
(2) 弓のスピードを上げる
(3) 駒よりで弾く

確かに言っていることはもっともなのですが、私には長年疑問に思っていたことがありました。

「1bowで大音量を長時間保つ時には上の条件をどう使ったらいいのか?」

長時間保ちたいので間違いなく「(2) 弓のスピード」は違いますね。
「(3) 駒よりで弾く」のは良いとして、残る条件は「(1) 圧力」だけです。

でも一定以上の圧力をかけると音が潰れてしまう。。。
一方で、潰れないように圧力を制御すると音量が出せない??
音量を出すには音質を犠牲にしなければならないのでしょうか?

この疑問をきっかけとして、効率の良い音の出し方について考えてみました。
順を追って説明していきます。

【圧力をかけるとなぜ音量が大きくなるか?】
「音量が大きい」とは言い換えると「弦の横方向の振動が大きい」となります。(これは開放弦を弾いている時に肉眼でも確認できるくらい弦が振動している様からもお分かりいただけるかと思います。)
つまり、大音量を出すためには「如何にして弦を横方向に振動させるか」を考える必要があります。

では、本題に入ります。
私たちは普段「圧力をかける」という言葉を、「上からの力(垂直抗力)を大きくするという意味」で使っています。
  弓から弦にかける垂直抗力 : N
  弓と弦の間の(動)摩擦力 : F
とすると、この2つの間には比例関係(F=μN)が成り立ちます。
従って、垂直抗力N(圧力)に比例して(横向きの)摩擦力Fが大きくなり、摩擦力によって弦は横方向に振動されるため圧力に応じて音量が大きくなるのです。

【響きのあるフォルテ】
確かに圧力をかけると音量が大きくなることは理解できました。
ただ、ここで1つ問題が。。。
確かに音量は大きくなりますが、垂直方向の圧力が大きすぎると弦が下方向に押しつけられてしまい、水平方向の振動を阻害する要因となります。すると弦はきれいな形で振動できず潰れた音になってしまいます。圧力をかけるほど弦が押さえつけられて水平方向の振動が阻害されるため、響きのあるフォルテは出せなくなってしまうのです。

響きのあるフォルテを出すためには以下の2点を満たす必要があります。
(1)弦が水平方向によく振動している
(2) 弦が押さえつけられる力は最小限に抑えられ、水平方向の振動を邪魔しない

この2点を同時に満たすにはどうすれば良いのか?
その答えは複雑で難しいものに感じられるかもしれません。でもこの2点を満たすための仕組みは、実は私たちが使っている「弓」の特性として本来備わっているものなのです。

次ページでは、「弓の特性」に焦点を当ててお話させていただきます。