Vol.5-4「弦楽器で大音量を出すために」

    
    【まとめ】
良い音を出すためのポイントを簡単にまとめてみます。
(1)弓を弦の上に置いて準備する
(2) 腕の重みをのせ、弓を押し込み量を決定する(弓の毛が弦に軽く食い込むようなイメージ)
(2)弓を水平方向に引っ張る。(弓の位置、スピードを調節しながら)
必要なのはこの3点だと考えます。

「え、結局これだけ?」と思うほど結果は単純ですよね。でも物理的な裏付けを理解するのとしないのでは練習の効果は全然違うものになります。
最終的な結果だけを覚えるのではなく、その考えに至った過程を是非上達のヒントにしてもらいたいと思っています。

せっかくですので、ここで「アレクサンダー・テクニーク」というものを紹介したいと思います。

【アレクサンダー・テクニークとは?】
アレクサンダー・テクニークは19世紀のオーストラリア人、F.M.アレクサ ンダー氏が発見した、自分自身の使い方をよくするためのメソッドであり、どのように心身を含めた「自分」を使っているのか、どうしたら「自分」をより活かせるのかについての理解を深め、本来備わっている力を発揮するための実践的な方法です。欧米の多くの国々で、音楽家、ロックミュージシャン、俳優、スポーツ選手、舞踊家、パフォーマーが、トレーニングの中にアレクサンダー・テクニークを取り入れています。

【エンド・ゲイニング】
アレクサンダー・テクニークについて調べていると「エンド・ゲイニング(end-gaining)」という言葉が出てきます。これは、アレクサンダー・テクニークの中心となる概念の一つであり、結果だけに気を取られること、いわゆる結果主義とか成果主義といわれるようなものです。
わかりやすい例を以下に示します。
腰痛を持ったスポーツ選手に対して、医師が「腰痛は腰が弱いからですね」と判断してしまうことはエンド・ゲイニングと言えます。腰痛という結果だけに注目していて、原因(間違った身体の使い方)には目を向けていないからです。さらに、医師が指示した治療法(水泳など)はエンド・ゲイニングな治療と言えます。水泳をやっても間違った身体の使い方が治るわけではないからです。

もう一つ、エンド・ゲイニング的なヴァイオリン演奏の例を挙げておきます。
たまに弓の毛をパンパンに張りすぎている人を見かけます。理由はフォルテを弾くと弓の毛がスティックに擦れてしまうから、弓の張りを強くしてスティックに触れるのを防ぐためです。
おそらく、このような人は以下の考え方を持っていると思われます。

「音量を出すには上から強く押さえつける必要がある。」

これは2ページ目の図1のモデルで説明したように、弓を「硬い真っ直ぐな棒」とイメージした考え方だと言えます。実際の弓は図2のようなモデルであり、そのモデルに合った演奏方法に修正すれば弓の毛を張りすぎなくても大きな音が出せることに気付いていないのです。
根本的な原因(誤った認識、演奏方法)を見直すのではなく、対症療法的に弓の張りを強くしてスティックに触れないようにすること、これこそまさにエンド・ゲイニングの一例だと言えるのではないでしょうか。
弓を張りすぎると以下のような悪循環があります。
・音量を出すために垂直方向の圧力に頼る音になるため、潰れたフォルテしか出せない。
・圧力に頼った弾き方では、大きな音量を出せないためさらに圧力を強くしたくなる。
・ 圧力を強くするとさらに弓を張らないと毛とスティックが触れてしまう。
・ 毛を強く張れば張るほど弓は弾力を失い、硬い棒のような状態になってしまう。
→本来あるべき弓の性能を活かすことができない。
・ 張りすぎた状態になると、理想的な弾き方で弾いても弓が滑ってしまう。
→理想的な弾き方が実感できず、いつまでも圧力に頼った弾き方しかできなくなる。

弓を張りすぎると潰れたフォルテしか出せないだけでなく、理想的な弾き方を習得する機会までも失ってしまうのです。この原因がたった1つの「勘違い」から来ているものだというのは驚きですよね!

【最後に】
アレクサンダー・テクニークでは、「上達するためのテクニックを学ぶ」というよりは、「上手くできない要因を発見して排除する」を重視していることに特徴があります。
これらの要因を楽器の演奏で考えてみると、
・ ちょっとした思い込み、勘違い
・ 誤った身体の使い方
・ 理にかなっていないフォーム
などが挙げられます。

自分の弱点(思い込みや癖)をいっぱい発見して、一つ一つ解決していくことが上達の近道だと考えます。上達すれば表現力が増し、自分の理想の音にどんどん近づけます。楽しさも倍増です♪
みなさんも自分の演奏方法(フォームや身体の使い方など)が本当に理にかなっているものか検証してみてはいかがでしょうか?