Vol.5-3「弦楽器で大音量を出すために」

 【圧力をかける? or 圧力を保つ?】

響きのあるフォルテを出すためには「適度な圧力をかけながら」ボーイングをコントロールする必要があります。いや、イメージ的には「適度な圧力を保ちながら」と言った方がいいでしょうか。
まず、「圧力をかける」をイメージした時の特徴(デメリット)を挙げてみます。

●圧力をかける 
・「下方向の力をかけ続ける」というイメージがある。
・ 「圧力をかける」と聞くと、多くの人が肘を高く上げて小手先で弓を押さえつけてしまう。
→不自然なフォームとなり、弓を水平方向に動かしにくくなる。
・ どこまで「圧力をかけ」ていいのか、その限界がわからない。
・ 弓を動かす瞬間にはかける圧力意識するが、ボーイングの途中では意識されないことが多い。(途中で圧力が抜けてしまう)
・ 弓を動かす瞬間に圧力をかけ始めるため、弓が上下にバウンドしてしまう。
(最初に弓を置いて始めなければ、叩きつける形になり制御不可能なほど暴れてしまう)

次に「圧力を保つ弾き方」について説明します。
    
    ●圧力を保つ
・ まず弓を置いて準備しておく     
    

    

「圧力を保つ」ためには、最初から圧力がかかっていなければなりません。
動き始める前に弓を置き、その時に「保つべき圧力」を設定します。
この作業がボーイング開始時の弾きやすさを決定すると言っても過言ではありません。この圧力設定は楽器や弓の性能によって異なります。自分の楽器はどの程度圧力が適切なのかを是非見つけてみてください。
※元で弾く場合は弓の重みだけで十分な圧力がかかります。決して圧力をかけすぎないよう注意してください。
・ 弓からの(上向きの)反発力を感じる
    弓を置いて準備すると、設定した圧力に応じて弓がたわみます。すると、たわんだ弓は弾性によって元に戻ろうとするため、弓を押し返すような上向きの反発力が発生します。
安定したボウイングをするためには、この反発力によって弓が押し戻されないようにバランスを取る必要があります。「適度な圧力」とは、反発力との釣り合いが取れた(バランスの取れた)状態であると言えます。
・「圧力を保ち」ながら水平方向に弓を動かす
    以上の準備ができたら、反発力によって弓が押し戻されないように圧力を保ちながら水平方向に動かします。この始動のタイミングが最も集中すべき瞬間です。というのも、始動の瞬間は圧力のバランスが崩れ易く、反発力に負けて弓が押し戻されやすくなるためです。これを如何に制御できるかが安定した音を弾くコツになります。

「圧力をかける」、「圧力を保つ」について考えてきましたが、この2つの大きな違いは何でしょうか?
「圧力をかける」場合、下方向に積極的に圧力をかけ続ける傾向にあります。一方、「圧力を保つ」場合は、弓からの反発力に押し戻されないようにバランスを取りながら圧力を調整しています。

・ 意識している力の向きが「下向き」と「上向き」の違い
・ 「圧力をかけ続ける」と「反発力とのバランスを取る」の違い

この意識の違いだけで音がまるで変わってきます。この違いを是非実感してみてください!

【音量を上げるために】
弓を置いて準備できたら、あとは水平方向に引っ張るだけで弦を水平方向に効率良く振動させることができます。
音量は水平方向の振動で決まるため、音量を上げたいと思ったら水平方向に引っ張る力(水平方向の圧力)を強くするように意識してみてください。その際に弓がすべるようなら、弓を置く段階での設定圧力をもう少し強くしてみましょう。
ただし、この時も「押さえつける」イメージではなく、「腕の重さを乗せて」弓の押し込み量を調節することが大事です。

それでも弓がすべるようなら以下の点を見直してみましょう。
・ 圧力、弓の位置、スピードがバランスの取れた関係になっているか?
(圧力が大きいほど駒寄りで弾く必要があり、駒寄りではゆっくり弾く必要がある)
・ 弓の毛を張りすぎていないか?
・「適度な」松ヤニが付いているか?
 (毛替えが必要な弓に対して、松ヤニの粘り気だけで音を出そうとするのは好ましくありません)
・毛替えをするべき時期ではないか?

【弓が弦に吸い付く】
弦楽器奏者は調子が良い時によく「弓が弦に吸い付く」という表現をよく使います。では、どのような時に「弓が吸い付いた」感覚を感じるのでしょうか?
当たり前の話ですが、弓が滑らずに効率良く弦を振動させている時ですね。
そのためには
「準備の段階で弓をしっかり弦に食い込ませて、適度なスピードで水平方向の圧力を加える」
このことをしっかり意識するだけで弓が弦を捕らえる確率は大幅にUPすると思います。

【安定した音を出すために】
弓の返しの勢いだけで音を出している人を多くみかけますが、このような音の出し方では最初のインパクトだけが強く、弓が吸い付いていないため音量・音質が不均質になってしまいます。
上手な人の演奏を思い出してみてください。勢いに頼ったボーイングではなく、元から先まで均質な音を出していて安定感がありませんか?
安定した音を出すためには、惰性で「音が出る」のではなく「吸い付いた弓で意識的に音を出す」感覚を持つのが大切です。これが、いわゆる右手の技術であり、弦楽器奏者が大変苦労する点なのですね。

【良い弓とは】
突然ですが、「良い弓」とは何でしょうか?
弓について考える時に「重心」や「弾性」といった言葉がよく出てきます。この2項目について考えてみましょう。
● 「重心」について
バイオリンの弓の重さは60g前後であり、実はどの弓もそんなに大きな違いはありません。同じ重さの弓でも重く感じたり軽く感じる理由は重心の位置が大きく関係しています。
(1) 扱いやすい位置に重心があること
(2) 弓の重さを弦に効率的に乗せられる位置に重心があること
この2点をバランス良く満たすものが良い弓といえます。

● 「弾性」について
前ページでは弓の物理的なモデルについてお話しましたが、弓を「硬い棒」とイメージした場合、音が潰れてしまって「響きのあるフォルテ」が出せません。
良い弓とは「弦の水平方向の振動」を邪魔することのない弾性に優れた造りをしているものです。

弓の購入を検討する機会がある方は、「良い弓はどういうものか」を頭の片隅に持って弓選びをされることをオススメします。

次のページが最後のまとめです。あともう少しだけ、お付き合いください。