Vol.3 「イメージ」

    
  今回コラムを担当させて頂くこととなった1st Vnの出口です。
「オーケストラと少年少女」ではコンサートマスターを任されることとなり、期待と不安が入り交じった気持ちで本番までの日々を過ごしております。私自身、コンマスは初めての経験なので色々とご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願い致します。

 さて、今回のコラムですが「イメージ」をテーマに取り上げさせて頂きます。
楽譜の中には基本的に以下の情報が記されています。

【テンポ】 最初のテンポ設定、rit.やaccel.などのテンポ変化を表す記号など。
【音符・休符】 4分音符・4分休符など。
【強弱】 フォルテ、ピアノ、クレッシェンドやデクレッシェンドなど。
【表情記号】 スタッカート、テヌート、アクセントなど。

 作曲家はこれらの限られたツールを用いて自分のイメージを楽譜におこしているため、細かいニュアンスを表現するには限界があります。4分音符ひとつ取ってみても、
●音符を拍いっぱい伸ばすのか、少し短めに歯切れよく弾くのか
●伸ばす時は自然に減衰するのか、音を保つのか
など、演奏者が意識しなければならないことが多くあります。このように楽譜の中には演奏に必要な情報が全て書かれているわけではなく、演奏者が足りない部分を補っていかなければなりません。その時に必要となるのが「イメージ」だと私は思っています。
 「イメージ」と聞くと抽象的で何となく難しく感じるかもしれませんが、簡単に言うと「こんな感じで弾きたい」という意識を持つことです。「こんな感じ」のニュアンスを揃えることができれば自ずと音の長さや処理の仕方も揃ってくるのではないでしょうか?

ここで例として、ある練習風景を思い浮かべてみましょう。
オケの練習中指揮者が一度曲を止めて
「ここの4分音符はもう少し短めにして下さい。」
と指示を出したとします。Aさんは短めと言われたので
「短めかぁ、これぐらいかな?」
とさっきより短い音で演奏しました。
「長さはそれぐらいでいいのですが、スピード感が足りませんね」
と、また止められてしまいました。

さて、この状況は何が悪かったのでしょう?
指揮者の「もう少し短めに」という指示は自分のイメージを理解してもらうためのヒントにすぎません。一方、Aさんは「指揮者の指示を守ること」が目的となってしまっており、求められている音をイメージせずに文字通り「短い音で」演奏してしまいました。このようなすれ違いは意外と多く起こっているのではないでしょうか?
指揮者から指示があった場合にはそれを文字通り受け取るだけでなく、どのような音が求められているかを想像しながら演奏することが大切だと思います。

最後に…
私自身の練習への取り組み方を紹介したいと思います。少しでも参考にして頂ければ幸いです。

【事前準備】
まず、楽器を持つ前にCDを聴きながら曲の雰囲気を覚え、音の長さなどのイメージを作っておきます。テクニック的に演奏が困難な箇所であっても、少なくとも口では歌えるようにイメージ作りをしています。
(「口で歌えないのに楽器で上手く弾けるはずがない」というのが私の考えなのですが、みなさんはいかがですか?)

【全体練習】
以上のように事前にイメージをしっかり作った上で全体練習に臨みます。感性には個人差があるとは言え、出来上がったイメージは基本的に8割程度は同じような方向性になっているはずです。従って、これだけ準備をしておけば全体練習では「残りの2割」のイメージを修正することに集中すれば良いことになります。

一人一人がしっかりとしたイメージを持ち、その個々のイメージを全体練習で微調整しながら方向性を揃えていく。このような流れが効率的な練習をするために重要だと思います。また、早い段階でイメージの方向性が揃ってくればその分だけアンサンブルに費やせる時間が増え、結果的に曲の完成度を高めることができるのではないでしょうか。
本番までの限られた練習一回一回を効率的に活用し、7月22日には素晴らしいコンサートを開けることを楽しみにしております。